文:STAFFてんぽこ
~研究・試作・店舗作り~
>>バインミー専門店オープンまでの記録【1】はコチラ
当時、まだ日本では珍しい存在だった「バインミー」の研究と試作、そして完成までの道のりは思えば険しいものでした。考えると心臓がギュっと鷲づかみされるくらいの気持ちになるので思い出さない方がカラダにいいのかもしれませんが、簡単に忘れることもできません。
楽しかった記憶より辛かった記憶を私の脳みそは好む傾向にあるので、このような性格になってしまったのかなと、そんな余計なことを思いながら書いています。
「前に進みたいなら過去は捨てなさい」と先日観たフォレストガンプでも言っていました。でも捨てたくても捨てられないのが過去です。物を捨てるのとは違って心と記憶を捨てるなんて私にはできません。自分だけの問題ではないし、関わった人たちと当時の自分を消すことになるからです。自分を消しても誰かの記憶に残るのであれば過去を捨てたことにならないし、過去を捨てたという意識がある時点で過去に依存しているような気もするし、過去の過ち、過去の経験、過去の友人、過去のデータ、過去の栄光、過去の損害、過去の…あげていくときりがありませんが、やはり完全には捨てられません。過去があるからこその自分ですし、過去の辛さというものは永遠に付きまといます。私はコレクションでもしているの?と突っ込みたくなるくらい過去を大切にしまっています。過去をしまい続けて数十年です。
話を戻しますと、とにかく、あの時は様々な感情に浸る時間も何もかもが無く、目の前のことをクリアしていく日々が過ぎていきました。「たった1個のサンドイッチを作るのに、こんなに沢山の手作り具材が必要なのか…」と仕込みの量に狼狽えたのは事実です。スーパーで売っているものをただ挟むだけでは完成させることができません。そしてパクチーや調味料なども日本で簡単に手に入るものではないので、仕入れ先の確保にも頭を悩ますのでした。
そんな試作と並行しながら店舗の内装作りも進めていきました。二人で店内を計測しそれに合わせてNACHIが設計図を作り、どこに何を配置するか考える。配置するものを購入してパズルのように狭い店内にはめ込んでいくのですが2㎝以上のズレは許されません。ズレたらはまらないのです。
お店の中で使用する木のテーブルなども既製品では丁度良いものが無い為、ネットで職人さんを探し、希望通りの木の色とサイズで作ってもらいました。今の店舗で使っているレジ台や、返却台、二人席のテーブルはその一部です。
自分達で壁紙を貼ったり壁をペンキで塗ったり床のワックスがけをしたり、今の店舗より狭かったのですが、全く掃除されておらず凄く汚かったのでキレイにするのにも苦労しました。ただ、汚かったものをキレイにするという行為は危険で、いつまででも続けられるのです。「ある程度で終わらせる」という言葉が私は苦手だったので、いつまででも磨いていました。
以前、自分の部屋の壁をペンキで塗ったことがあったので、その経験を活かす事ができたのは嬉しかったです。壁紙を貼るよりペンキで壁を塗る方がラクだなと思いました。どこまでこだわるかで疲れ具合が全然変わってきます。あと、思い出しましたが、私たちが一生懸命貼った壁紙を業者さんが破ってしまうという事故もありました。その時はショックでしたが今の自分だったらポスターでもはっとけばいいかと思ってしまうくらいだと思います。その頃は少しの事でも気持ちが持っていかれるような状況だったように思います。
そういう時は、新品のもの全てを異様に大切にしてしまう傾向にあるので、その気持ちが自分を狂わせます。買ったばかりの自転車が雨に濡れるだけで大騒ぎしてしまうような感情です。少しくらい傷ついてもいいんです、本当は。なのに傷ついたらこの世の終わりくらいショックを受けてしまう、そういう精神状態になった場合は心が疲れているのだと思います。そうなった時は心と体を休ませて大きな声で歌って違うことに没頭するのが一番です。
あの頃も今もですが、二人とも車を所有していない為、何を運ぶにしても自転車。とにかく自転車でした。雨が降ったら凄く不便でどうしようもありません。よくホームセンターから大きい荷物を運んでいたのですが、軽いから全然余裕だと思っていたBIGサイズのプラダン板を自転車で運ぶのは危険です。軽さが原因で風に煽られやすいのでかなりのテクニックが必要になりました。追い風が続くのであればリュックサックを背負うように運べば風力だけで前進することができて物凄くラクかもしれませんが、向かい風が吹いたら来た道戻ります。横幅も大きいですし、現実的ではありません。ホームセンターの前で売っていたみたらし団子やたい焼きも買わずに我慢したなぁと、書いていると色々なことを思い出してきました。
あと、当店の外観にもあるバインミーのイラストは友人に依頼し、素敵に仕上げてくれました。お店のPOPやメニュー表の作成、ショップカード、チラシ、ホームページ作成などは前職でやった事があったので、最初から自分達でやるのは当たり前だという気持ちで取り組みました。ただ、自分達でできるからと何もかもDIYでやるのは、並行してバインミーの研究・試作も進めなければいけない私達にとっては間違った選択だったと今は思います。
ただがむしゃらに目標に向かって突き進んでいたので、どれだけ判断ミスをしたのか数え切れないくらいですが判断ミスをしながら毎日を生きている私にとったらミスをミスして成功に転じるということもあります。後にならないと何が良かったかなんて判断できません。ミスした時に悔みすぎないことが大事だといつも自分に言い聞かせていますが、言い聞かせるだけで心に変化が訪れたことは一度もありません。
二人で経営しているのでぶつかり合うこともありますが、経営に関してはNACHIにお任せしています。私のこの行動は、無責任というわけではなく、提案されたものに後から口出しをする一番タチの悪いタイプになるかと思います。でも、ここで重要なのが私の意見はお店にとってプラスにならないことばかりなので即却下されるということです。口出しの意味がないんです。
店舗の雰囲気をどうするか話し合うこともありましたが、自分達の好みを前面に出さないほうがいいという結果になりました。私達は二人とも少し悪趣味というか、一般的に好まれていないものに惹かれる傾向にあるので、ここは慎重に老若男女どなたでも気軽に足を運んでいただける「安心感」「清潔感」を心がけました。それでも、結局「扉が奥まっていて怪しい」「外観だけでは何の店かわからない」「とにかく入りづらい」と言われ続けて数年間営業し続けるのでした(笑)
それも今となっては懐かしい思い出です。バインミーという聞いたこともない料理を扱う、とにかく入りづらいお店に勇気を出して入店してくださったお客様には感謝の気持ちでいっぱいです。
>>バインミー専門店オープンまでの記録【3】に続く・・・
★掲載写真は移転前の旧店舗の写真です。
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